京都市はなぜ財政難なのか:地下鉄だけじゃない、5つの構造問題

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私は地方からこの古都に流れ着いた移住者である。

事の発端は、一枚の回覧板であった。

「次期 京都市都市計画マスタープラン(案)について」——そう書かれた紙が、ある夕暮れ時に我が家の郵便受けに収まっていた。正直に申し上げると、最初は読む気がしなかった。行政の文書というものは、たいてい読む者の気力を削ぐように書かれているものである。

しかし、何の気なしにページをめくり始めたところ、これが思いのほか面白い。気づけば4歳の息子が寝静まった深夜まで読み耽っていた。妻には「また変なものを読んでいる」と呆れられた。


そもそも私がこの京都に来たのは、学生時代の記憶があったからだ。あの頃の京都が忘れられず、家族とともに移住を決めた。この街の路地が好きで、和菓子が好きで、祭りが好きで——そのくらいの理由で移り住んできたわけであるが、そこで気がついたことがある。

私は京都という街を愛しながら、この街の市政というものをまるで知らなかった。

回覧板一枚で動揺するくらいには、何も知らなかったのである。


「財政難」という言葉の重さ

マスタープランを読み進めると、「財政的制約の中で」「限られた財源を有効に」という言葉が随所に登場する。そのたびに私は手を止めた。京都市は、いったいどのくらい「財政難」なのか。

調べ始めると、数字はかなり深刻だった。京都市の市税収入(令和6年度)は約3,243億円。政令市の中では横浜市(約8,937億円)や大阪市(約8,305億円)と比べると規模の差は歴然としているが、問題は「規模」ではなく「構造」にある。

法人市民税という「揺れる柱」

京都市の税収構造を見ていくと、ある数字に目が止まる。法人市民税が307億円(R6年度)で、市税全体の約10%を占める。これ自体は名古屋市(11%)や大阪市(16%)と比べて突出した数値ではない。

ところが、この法人市民税の「暴れ方」が尋常ではないのだ。

H19年度(2007年度)からR6年度(2024年度)までの18年間を6つの政令市で比べると、京都市の変動係数(CV)は16.2%。横浜市の11.2%、神戸市の10.6%と比べて明らかに高い。しかもリーマンショック(H20→H21)では一年で−31.9%の急落。コロナ禍(R1→R2)でも−21.6%の下落を記録している。

都市変動係数(CV)最大1年下落率リーマン下落コロナ下落
京都市16.2%−31.9%−31.9%−21.6%
名古屋市14.3%−31.8%−31.8%−17.2%
大阪市13.7%−33.0%−33.0%−27.0%
横浜市11.2%−25.0%−25.0%−17.6%
神戸市10.6%−18.7%−17.6%−18.7%
出典:横浜市「財政ビジョン(令和6年度版)」掲載データほか各市決算書より筆者集計(H19〜R6年度)

なぜ京都市だけが「特異な動き」をするのか

各都市の変動パターンを比べていくと、興味深いことに気づく。リーマンショックの時は全6市がほぼ同率で落ち込んだ(「全国景気連動型」)。ところが、その後の回復期と好景気期には、各都市が独自のリズムで動き出す。

顕著なのはH30年度(2018年度)だ。京都市の法人市民税は前年比+29%という異常な急騰を見せた。同じ年、名古屋市は+7%、横浜市はほぼ横ばいである。この差は何を意味するか——電子部品メーカーと任天堂の業績が絶好調だったのだ。

さらにR3年度(2021年度)、京都市は+27%と再び急騰する。任天堂Switchが世界的に売れに売れた年だ。同じ年、名古屋市は半導体不足でトヨタが打撃を受け▲4%。京都と名古屋が「逆相関」を示したのである。

これは偶然ではない。京都市の法人市民税は、ごく少数の製造業企業(電子部品・精密機器・ゲーム)の業績サイクルにほぼ直結している。一人当たり法人市民税の政令市20市比較でも京都市は3位(高い方)に位置しており、少ない企業数で大きな税収を稼いでいる構造が確認できる。

「規模が小さい」ことの本当の意味

名古屋市もトヨタへの依存という点では似たような構造を持つ。しかし名古屋市の法人市民税は722億円(R6年度)と、京都市307億円の倍以上だ。

つまり名古屋は「トヨタ依存でも、規模が大きいから多少の変動は吸収できる」。京都は「規模が小さい中で集中度も高い」という、より脆弱な構造にある。法人市民税が100億円落ちたとき、市税全体3,243億円への打撃は約3%。それが積み重なれば、福祉・教育・インフラ維持費に確実に影響する。

地下鉄だけじゃない、5つの構造問題

よく「京都市の財政難は地下鉄の借金のせい」と言われる。確かに京都市営地下鉄の建設に伴う累積赤字は長年の重荷だった。しかし、それだけを見ていては本質を見誤る。税収構造の分析から浮かび上がる構造問題は、大きく5つある。

  1. 法人税収の異常な変動性——CV16.2%という数字が示す通り、法人市民税は景気サイクルに翻弄される。村田製作所・ローム・任天堂といった数社の業績次第で税収が数十億円単位で変動する。
  2. 個人市民税の低さ——京都市の一人当たり個人市民税は20政令市中13位(80,102円)。観光業・サービス業・学生アルバイトが多く、所得水準が相対的に低い。
  3. 固定資産税の伸び悩み——古い建物・歴史的景観保護エリアが多く、再開発による資産価値上昇が他都市ほど期待できない。20市中9位(73,120円/人)。
  4. 高齢化による歳出増——高齢化率が政令市の中でも高水準で、社会保障関連の歳出が年々増加する一方、税収の伸びが追いつかない。
  5. 観光インフラ投資と受益者負担のギャップ——年間5,000万人超の観光客を受け入れるためのインフラ整備・維持コストは市民の税金で賄われているが、その受益の多くは市外・国外の人々に帰する。宿泊税はその是正を図る試みだが、まだ途上だ。

阿呆の血、というこの街で

回覧板を読み始めたあの夜から、私は京都市の決算書や統計を追い続けている。数字を追えば追うほど、この街の財政が綱渡りの上に成り立っていることが見えてくる。

「祇園祭が好きで引っ越してきた」などという呑気な移住者が、電子部品メーカーの決算短信まで読む羽目になるとは思っていなかった。だが、これが市民として京都を本気で考えるということだろう。

この街の財政問題は、観光客が消費する一杯の抹茶とも、路地裏の空き家問題とも、子どもたちの学校統廃合とも、すべてつながっている。次回以降、個別のテーマを深掘りしていく。

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