京都市民の頭上から、五千円が降ってきた。
もちろん札束ではない。京都市公式アプリの中に現れる「京都ポイント」である。マイナンバーカードを読み込めば、市民一人につき5,000ポイント。1ポイントは1円として、市内の参加店舗で使える。
物価は上がり、財布は軽くなる一方である。五千円はありがたい。狸でも人間でも、もらえるものは素直にもらっておくに限る。
ただし、空から降ってきたように見える金にも、雲の向こうには勘定書きがある。
四十五億円余のうち、いくらがポイントになるのか
京都市が最初に組んだ予算は、総額45億600万円だった。そのうち、市民が受け取るポイントの原資は35億7,500万円。差額の9億3,100万円が、アプリ開発、運用、本人確認、店舗対応、コールセンター、支援窓口などに充てられる事務経費という計算になる。
つまり、当初予算で見ると、市民のポイントとして直接届くのは全体の約79.3%。残る約20.7%は、五千円を安全に配り、京都市内で使えるようにするための仕組みに使われる。
ここで「二割も事務費か」と声を上げるのは簡単である。しかし、百万人を超える市民を相手に、二重給付を防ぎ、店舗を募り、決済し、精算し、スマートフォンを使えない人の窓口まで用意するとなれば、竹筒に小判を詰めて各戸へ投げ込むわけにはいかない。
事務費が存在すること自体は、失敗の証拠ではない。
問題は、その9億3,100万円によって、何がどこまで実現したのかである。
五千円使ったら、京都の消費は五千円増えるのか
京都ポイントの目的は、物価高に苦しむ市民を支え、市内で消費を起こすことだという。現金なら貯蓄されたり、市外で使われたりするかもしれない。そこで利用先を市内の参加店舗に限定した。理屈はよく分かる。
ただ、私が普段から京都市内のスーパーで買う食料品を、現金ではなくポイントで払ったとしよう。店には五千円が落ちる。しかし、私の消費が五千円増えたとは限らない。浮いた現金を貯金すれば、もともと予定していた支出の支払手段が変わっただけである。
逆に、ポイントがきっかけで、いつもより一品多く買ったり、初めて個人商店に入ったり、家族で食事をしたりすれば、新しい消費が生まれる。
同じ五千円でも、経済効果は同じではない。
だから知りたいのは「何ポイント配ったか」だけではない。ポイント利用によって追加で生まれた消費はいくらか。大型店と個人店にどの程度回ったか。参加店舗の売上にどんな変化があったか。高齢者やスマートフォンを持たない人に、支援がきちんと届いたか。
行政にも「ROI」、つまり使った費用に対してどれほどの効果が返ってきたか、という考え方があっていい。
好調だから四億円追加、で終わらせない
京都市は9月11日、申請状況を踏まえて、この事業に4億円を追加する補正予算を公表した。5,000円を8万人分で、ちょうど4億円。申請が想定を上回ったための増額である。
利用が広がったことは喜ばしい。少なくとも、制度が誰にも使われず、アプリだけが寂しく光っている事態ではなかった。
一方で、初期のポイント原資35億7,500万円は、5,000円で割ると71万5,000人分である。「京都市民一人につき5,000円」と大きく掲げながら、最初から全市民分を確保した予算ではなかった。今回の4億円を足しても79万5,000人分だ。
もちろん、全員が申請するとは限らない。予算を過大に積むより、申請の進み具合を見ながら増額する方が合理的だという説明も成り立つ。
だからこそ、「好調なので追加しました」だけで終わらず、最初の想定は何人で、実際には誰が申請し、誰が申請できなかったのかまで検証してほしい。
そこで「京都市民価格」という乱暴なことを考える
別の方法はなかったのか。
たとえば、市内の参加店舗が市民に一定の割引を行い、後から京都市が割引分を補填する「京都市民価格」のような仕組みである。利用のたびに本人確認が必要になるから、これも決して簡単ではない。店舗の精算負担、不正利用、個人情報、参加しない店との公平性など、すぐに難題が並ぶ。
それでも比較対象として考える価値はある。
アプリを一から整備してポイントを配る方式と、既存の店舗網を使って値引きを支える方式。紙の商品券。現金給付。対象を絞った給付。それぞれ、届きやすさ、事務費、消費喚起、デジタル化という利点と欠点が違う。
政策は、採用した案の立派さを語るだけでは足りない。採用しなかった案と比べて、なぜこれが最もよかったのかを示して、ようやく勘定が合う。
一円でどこまで飛べたかを教えてほしい
京都市の説明では、公式アプリは今回だけでなく、今後の同種の給付にも使える基盤になるという。ならば、今回の事務費を一回限りの出費として見るのか、将来の事業でも使う投資として見るのかで評価は変わる。
次に同じような給付をするとき、事務費はいくら下がるのか。申請はどれだけ簡単になるのか。参加店舗はどれだけ増えるのか。今回つくった仕組みが別の市民サービスにも役立つのか。
京都ポイントを「成功だった」「失敗だった」の二文字で片づけるより、どれだけ効率的だったかを知りたい。
京都市役所には、ぜひ「一円でどこまで飛べたか」を教えてほしい。ポイントの給付総額だけでなく、申請率、利用率、未使用額、追加消費額、業種別・店舗規模別の利用、支援窓口の利用状況、そして次回の事務費削減見込みまで、事業後に公開してもらいたい。
というわけで、五千円はありがたく使う
批評したからといって、五千円を使わないわけではない。
せっかく京都市内でしか使えないのだから、いつもの支払いを置き換えるだけでなく、まだ入ったことのない店で使ってみようと思う。狸一匹の消費で京都経済が跳ね上がるほど世の中は単純ではないが、少なくとも自分の五千円がどこへ行ったかは見届けられる。
給付はありがたく受け取る。仕組みは冷静に勘定する。そして、次はもっと少ない費用で、もっと多くの市民と店に届くようにしてもらう。
阿呆は阿呆なりに、五千円の行方を見ているのである。