京都市・府はAIで稼ぐ町になれるか
京都の町を歩いていると、寺があり、町家があり、観光客がいて、たまにたぬきがいる。
しかし、その景色の裏側で、京都市と京都府は別の町をつくろうとしているらしい。
半導体、AI、ロボティクス、フィジカルAI。
ずいぶん横文字の多い町である。たぬきとしては、横文字が増えるほど予算書の字が小さくなる気がしてならない。
京都市と府が「フィジカルAI」を掲げた
京都府と京都市は、京都全域で半導体産業をさらに発展させるため、11月20日に「AI時代に向けたものづくり産業振興戦略フォーラム」を開催する。
テーマは、フィジカルAI。
会場は京都駅近くのホテルグランヴィア京都。トークセッション、企業展示、交流会を組み合わせ、定員は先着200名程度、参加費は無料とされている。
つまり、AIについて話す人を集め、AIをつくる会社を紹介し、AIに関心のある人をつなぐ場である。
人間は、まず集まる。集まって、名刺を交換する。そして「何か一緒にできそうですね」と言う。
この「何か」が、いつまで経っても「何か」のままにならないことを、たぬきは長年見てきた。
研修の対象は、経営者から現場の技術者まで
京都市は10月21日、京都高度技術研究所と連携して、AI・ロボティクス実践技術研修を始めると発表した。
対象は、市内の中小企業など。
外観検査を題材に、経営者や管理職向けの導入判断、初級技術者向けの光学系、中堅・ベテラン技術者向けのソフトウェア開発まで、段階を分けて学ぶ仕組みである。
ここは、なかなか筋がよい。
経営者には「導入して儲かるのか」を考えてもらい、現場には「カメラと照明をどう選ぶか」を学んでもらい、技術者には「実際に動くソフトウェア」を触ってもらう。
AI導入で一番困るのは、AIそのものではない。
「誰が使うのか」「誰が直すのか」「誰が効果を測るのか」が決まっていないことである。
機械は黙っているが、責任分担の曖昧さには、たぬきより敏感なのだ。
研修とフォーラムだけで産業は育つのか
ただし、ここで一つ気になることがある。
研修を開く。フォーラムを開く。企業を集める。
ここまでは、産業振興の入口として正しい。
では、その先に何があるのか。
例えば、次の数字は公開されるべきだろう。
- 研修に参加した企業数
- 実際にAIを導入した企業数
- 導入後に削減できた検査時間
- 不良流出や手戻りの削減額
- 新たに生まれた雇用
- 京都市内・府内で増えた売上
- その結果として増えた税収
「研修を実施しました」という実績だけでは、京都の財政は豊かにならない。
フォーラムの開催回数が増えても、市役所の決算書に「フォーラム益」という項目は現れない。残念ながら、たぬきの巣にも現れない。
京都の強みは、AIだけではない
京都には、半導体や大学だけでなく、長年ものづくりを続けてきた企業や職人がいる。
府は10月22日、「京竹工芸」と「京七宝」が新たに伝統的工芸品に指定されたと発表した。
ここに、京都らしい可能性がある。
AIと伝統産業を別々の箱に入れるのではなく、職人の技術を計測し、記録し、次の世代へ渡す。
あるいは、ロボットを使って重い作業を軽くし、職人が本当に人間にしかできない仕事へ集中する。
AIは、職人を追い出すためだけのものではない。
職人の手を守るための道具にもなり得る。
ただし、そのためには「AIを入れれば伝統が守れる」という雑な話ではなく、どの工程を残し、どの工程を機械に任せるのかを丁寧に決める必要がある。
たぬきは、何でも機械に任せる町より、任せるところと任せないところを見分ける町のほうが好きである。
京都市と府が本気かどうかは、3年後に分かる
京都市と京都府の取り組みが本気かどうかは、フォーラムの日ではなく、その後に分かる。
3年後、次の状態になっているかどうかだ。
- 中小企業の現場でAIが継続利用されている
- 研修を受けた人が社内で教える側になっている
- 京都発のAI・ロボット企業が府外から売上を得ている
- 伝統産業と先端技術の共同事例が生まれている
- 雇用と税収に効果が出ている
ここまで届けば、京都は「観光で人を呼ぶ町」から、「技術で価値をつくる町」へ一歩進める。
逆に、毎年フォーラムを開き、毎年研修を募集し、毎年「連携を深めます」と言っているだけなら、立派な会議産業の完成である。
会議室だけが栄え、工場が変わらない。
それでは、たぬきが会議室の隅で居眠りしていても、誰も気づかない。
京都市と京都府には、AIを導入した件数ではなく、京都でどれだけ稼げる産業を育てたのかを示してほしい。
寺と観光だけでなく、工場と技術でも京都を語れるようになるのか。
たぬきは、少し離れた屋根の上から見物している。